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Abendの憂我な部屋

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2012年 04月 17日

フェントンとルルー

 ジョン・ウィリアム・フェントンといっても、知っている人は少ないかも知れない。英国陸軍の軍楽隊長であったアイルランド人で、明治時代初頭に来日し、初代『君が代』を作曲した。

 ここの4分27秒から、吹奏楽での演奏を聴くことができる。

 クラシック愛好者なら一聴してコラール風とわかる曲である。しかし、これに古今集に由来する国歌の歌詞を乗せると、高低の波を描きながら進むこの曲では実に歌いにくいし、そもそもコラール風の曲では、当時の日本には馴染まなかっただろう。実際、この初代『君が代』は国歌として扱われることはなかったようだ。現行の国歌もハーモニーを付したのはドイツ人のフランツ・エッケルトだが、メロディー自体は宮内省の雅楽職にあった林廣守が作ったものなので、現在に至るまで国歌として受容されているわけである。雅楽といえば、現代では篳篥の東儀秀樹が有名だが、宮内庁式楽部の楽師は宮内庁のオーケストラ団員も兼ねており、以前テレビで東儀秀樹が団員としてチェロを弾いているのを視聴したことがある。

 シャルル・ルルーも、フェントンと同じぐらい知られてはいない。創成期の日本陸軍で軍楽を教えたフランス人将校にして作曲家である。現在も陸上自衛隊で演奏される『陸軍分列行進曲』は、彼が作ったものだ。

 私がこの曲を初めて聴いたのは、戦時中の学徒出陣壮行会のフィルムがテレビで放映されたのを見た時である。戦況が不利に転じ、卒業を繰り上げられた多くの学生が戦地に向かう状況とこの曲は時代的にマッチしていない。『陸軍分列行進曲』は、ルルーが明治天皇に献上した『扶桑歌』と、西南の役を歌った『抜刀隊』を新たに編曲したものだが、メロディーが日本人に馴染み易いために百数十年を経た現在でも現役の行進曲となっている。海軍の行進曲『軍艦』と並ぶ名曲といえるだろう。

 『陸軍分列行進曲』は、『扶桑歌』→『抜刀隊』→『扶桑歌』という構成になっている。『扶桑歌』の冒頭部分は、向田邦子の脚本によるテレビドラマ『阿修羅のごとく』のテーマ曲に使われて一躍有名になったトルコの軍楽『ジェッディン・デデン』と似ているが、『扶桑歌』の方が先に作られている。また、『抜刀隊』の冒頭がビゼーの『カルメン』第一組曲の「アルカラの竜騎兵」に似ていると聞いたことがあるが、聴き比べてみると、「似ている」といえるほどのものではないことがわかる。

 『ジェッディン・デデン』


 「アルカラの竜騎兵」


 フェントンの初代『君が代』は国歌となることなく終わり、ルルーの『陸軍分列行進曲』は現代も受け継がれている。近代日本の黎明期に来日した二人の外国人の明暗というところだろうか。

by Abend5522 | 2012-04-17 01:08 | クラシック以外の音楽


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