2012年 09月 27日
バッハのBWV906はハ短調の幻想曲である。正確には、その後に未完のフーガが付いているのだが、幻想曲のみ演奏されることが多い。バッハのライプツィヒ時代である1730年代に作曲された、5分足らずの小品。半音階進行と先鋭的なリズムが特徴だ。 LP時代から愛聴しているのがリヒター盤。1969年の録音で、演奏時間は4:52。 リヒターのチェンバロは時に荒っぽくなることがあるが、この曲での求心力は素晴らしい。強弱のコントラストはあまりつけず、一気呵成に弾き上げた剛毅な演奏だ。 よく知られた曲なので、YouTubeにも様々な演奏がアップされているのだが、リヒターの演奏が見当たらないのには不満を覚える。とまれ、その中から3種類の演奏を挙げておきたい。 ランドフスカの演奏。1928年の録音で、演奏時間は3:24。 強弱のコントラストの鮮やかさ、跳ねるようなリズム、コーダでのラレンタンドが印象的だ。 ピアノ版では、マルティン・シュタットフェルトの演奏を推したい。2004年の録音で、演奏時間は4:54。 シュタットフェルトは32歳の若手だが、前に『ゴルトベルク変奏曲』の演奏を聴いた時に、只者ではないと直感した。幻想曲の演奏でも、これだけ一音一音の処理を正確にやっていながら流れが阻害されず、曲の構成がはっきりと解るように表現している。リヒターと殆ど変わらない演奏時間なのに、その体感は全く異なる。今風という枠では捉えられない、私が最も注目しているピアニストのひとりだ。 ジャック・ルーシェ・トリオによるジャズ版。1963年の録音で、演奏時間は4:57。 ジャズには不案内なので、この演奏の特徴を言葉でどう表現していいのかわからないが、即興部分であまり崩してないのがいい。気品の高いアレンジだと思う。 僅か5分足らずのBWV906に、バッハの宇宙を感じる。
by Abend5522
| 2012-09-27 22:04
| クラシック音楽
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